越境ECに踏み出すとき、多くの店がまず見るのは「どの国でいくら売れているか」という売上額のランキングです。アメリカが一番、次が日本——そうして、売れている国にもっと力を入れようと考えます。経済産業省の調査でも越境ECの市場は伸び続けていて[1]、海外へ広げる判断は、めずらしくなくなりました。
ただ、本記事で最初にお伝えしたいのは、少し違う見方です。売上額のランキングだけでは、「これから伸びる国」は見えません。売上額が大きい国は、すでに売れている国にすぎないからです。本当に知りたいのは、まだ流入は少ないのに、訪れた人がよく買ってくれる国——つまり効率が高く、伸びしろのある国です。この記事では、国別の売上を「額」でなく、セッションあたり売上(RPS)とシェアという効率の目で見て、次に力を入れる国を見つける方法を、順番に整理していきます。
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目次
この記事のまとめ#
- 越境ECの次の一手を、国別の売上「額」だけで決めると、見落とします。売上額が大きい国は、すでに売れている国を映すだけで、これから伸びる国までは教えてくれないからです。
- 伸びしろは、効率で見ます。セッションあたり売上(RPS、訪問1回あたりの平均売上)と、全体に占めるシェアの2つを1画面で見比べると、額のランキングでは埋もれていた国が浮かびます。
- 狙いたいのは、セッションは少ないのにRPSが高い国です。まだ流入は薄いのに買う力が濃い——そこへ在庫や送料条件、広告を寄せれば、同じ手間でも売上が伸びる余地があります。
1. 国別の売上額だけ見ると伸びしろを見落とす#
国別の売上を「額」の大きい順で見ると、判断は「すでに売れている国を、もっと」に偏ります。だから額のランキングは、次に開拓する国を選ぶ出発点には向きません。
理由はシンプルです。売上額が大きい国は、流入(セッション)も多いことがほとんどです。たくさんの人が訪れれば、その分だけ売上の合計も積み上がります。でもそれは「人をたくさん集められている」という話で、「訪れた人がよく買ってくれる」とは別のことです。額の大きさには、集客の規模と買う力の濃さが混ざっていて、ランキングを見ているだけでは、その2つを切り分けられません。
すると何が起きるか。すでに流入の多い国にさらに広告を足し、流入は少ないけれど買う力の濃い国は「売上が小さいから後回し」と、見送ってしまいます。伸びしろのある国ほど、額のランキングでは下のほうに沈んでいて、目に入らないのです。

上の図のように、売上額で1位の国が、訪問1回あたりの効率で見ると必ずしも1位ではありません。額の順位と効率の順位は、同じとは限らないのです。では、その「効率」をどう見ればよいのか。次の章で、額の代わりになる2つの数字を整理します。
2. セッションあたり売上とシェアで効率を見る#
国別の効率は、セッションあたり売上(RPS)とシェアの2つで見ます。この2つをそろえて初めて、「どの国が、規模はまだ小さくても買う力が濃いのか」が分かります。
まず、RPSです。RPS(セッションあたり売上)とは、サイトを訪れた1回(1セッション)あたり、平均でいくらの売上が生まれたかを表す数字で、売上を訪問回数で割って求めます。同じ100回の訪問でも、よく買ってくれる国ほどRPSは高くなります。つまりRPSは、その国の訪問者がどれだけ買ってくれるか——買う力の濃さを映す指標です。流入の多い少ないに引きずられず、1回の訪問の価値そのものを比べられるところが、額のランキングとの違いです。
もう1つが、シェアです。全体の売上のうち、その国が何%を占めるか。シェアは「今どれだけ稼いでいるか」という大きさを表します。RPSが「1訪問あたりの濃さ」、シェアが「全体に占める大きさ」。この2つを1つの表で見比べると、額のランキングだけでは見えなかった国が浮かび上がります。シェアは小さい(まだ稼ぎは薄い)のに、RPSは高い(買う力は濃い)国——これが、伸びしろの候補です。

ポイントは、いつものシェア順の表に、効率(RPS)の列を右端に1本足すことです。たったそれだけで、シェアの順位では下のほうにいた国の中から、効率の高い「隠れた優等生」が見えてきます。ただし、表をながめて「RPSが高い国へ」とだけ考えるのは、まだ早いです。RPSの高さだけでなく、流入の規模と合わせて見る必要があります。次の章で、その合わせ技を整理します。
3. セッションは少ないがRPSが高い国が伸びしろ#
伸びしろを見つける鍵は、セッション数とRPSを掛け合わせて、4つのタイプに分けて見ることです。RPS単体でなく、流入の規模と組み合わせて初めて、「次に投資すべき国」が決まります。
横の軸にセッション数(流入の多い・少ない)、縦の軸にRPS(買う力の濃い・薄い)を取ると、国は4つのタイプに分かれます。

右上は、流入も多く買う力も濃い「主力」。今の売上を支える国で、ここは守ります。右下は、流入は多いのに買う力が薄い「見直し」。たくさん集めているのに買われていないので、送料や決済、ことばの壁など、買いにくい理由がないかを点検する国です。左下は、流入も買う力も小さい「様子見」。今は急いで動く理由のない国です。
そして狙うのが、左上——流入は少ないのに、RPSが高い「育成候補」です。まだほとんど力を入れていないのに、訪れた人がよく買ってくれている。ここに在庫を増やす、送料条件を見直す、その国向けに広告を寄せる、といった手を打てば、同じ集客の手間でも売上が伸びやすいのです。すでに混み合っている主力国に広告を足すより、買う力が証明済みの育成候補へ流入を引き込むほうが、伸びしろは大きく残っています。
4. 国別データを読むときの注意点#
効率で見ると一気に視界は広がりますが、国別のデータには読むときの作法があります。ここを押さえないと、効率の数字を過信してしまいます。
1つ目は、Unknown(どの国か分からない訪問)の存在です。国別の数字は、訪問者のIPアドレスから国を推定したものです。なかにはIPから国を割り出せない訪問もあり、それは推測で他の国へ振り分けず、Unknownの行に正直に残すのが正しい扱いです。Unknownが多いときは、その分だけ国別の数字に幅があると考えておきます。
2つ目は、検索側の国別データとは別系統だということです。検索エンジンのレポートで見られる国別の表示回数やクリックは、Google検索での見え方の話で、ここで扱っている売上やRPSとは直接は紐づきません。「検索の需要はあるのに売上が薄い国」を探すには役立ちますが、別々のものとして読みます。
3つ目は、国別では出せない数字があることです。広告の費用対効果(ROAS)は、国の絞り込みが効かないため、国別には出せません。注文1件あたりの単価(AOV)も、国別の表には含まれず、国の軸で見えるのはセッション・売上・RPS・シェアまでです。さらに、原価を引いた利益(粗利)や送料・関税は、そもそも売上分析の範囲の外にあります。国別の効率は「どの国に伸びしろがあるか」を映しますが、「その国で利益が残るか」までは、別途あなたの手元の原価・物流の情報と突き合わせる必要があります。
なお、効率で売上を分解する考え方は、国の軸に限りません。端末ごとの違いは端末別の売上分解で、新規とリピーターの違いは新規・リピーター別の売上で、それぞれ別の切り口として整理しています。
RevenueScopeの解決策
国別の効率を見ようとすると、結局ぶつかるのは同じ壁です。考え方は「RPSとシェアを1画面で見比べる」だけなのに、その材料がそろわないことです。
一般的な分析ツールの地域レポートは、国ごとのセッションや売上は出してくれます。けれど、効率を表すRPSの列は用意されておらず、シェアと効率を1枚で見比べる形にもなっていません。結局、国ごとに数字を書き出し、自分でRPSを計算し、表に並べ替える——この手作業を、国の数だけくり返すことになります。上位の十数か国でこれをやるだけで、肝心の「どこへ投資するか」を考える前に力尽きます。考え方は簡単なのに、続けるほど重くなるのです。
RevenueScope は、その散らばった材料を1つの表に集約します。国別のセッション・売上・シェアに加えて、効率を表すRPSの列を最右に足した一覧を、そのまま出力します(表示はデモデータ)。
| 国 | セッション | 売上シェア | RPS(指数) |
|---|---|---|---|
| アメリカ | 12,400 | 41% | 100 |
| 日本 | 9,800 | 33% | 105 |
| ドイツ | 3,100 | 9% | 78 |
| オーストラリア | 1,200 | 6% | 168 |
| Other(その他) | 2,500 | 8% | 62 |
| Unknown(国不明) | 900 | 3% | — |
この表の読みどころは、売上シェアでは下から数えたほうが早いオーストラリア(6%)が、効率(RPS)では最右の列で頭一つ抜けていることです。流入はまだ1,200と薄いのに、訪れた人の買う力は主力のアメリカや日本を上回っています。これがまさに、第3章の「育成候補(流入は少ない×RPSが高い)」にあたる国です。シェアの順位だけを見ていたら、まず気づけません。ここから次の一手が見えてきます。オーストラリア向けに在庫や送料条件、広告を寄せれば、混み合った主力国に足すより、同じ集客の手間で売上が伸びる余地がある——という見立てです。
ひとつ、はっきりさせておきます。RevenueScope が国の軸で出すのは、セッション・売上・RPS・シェアまでです。国別のROASやAOV、原価を引いた利益(粗利)、送料・関税は出しません。IPから国を割り出せなかった訪問は、推測で埋めず Unknown として正直に残します。どの国に伸びしろがあるかの材料はそろえますが、最終的にどの国へ投資するかは、あなたが下す判断です。
FAQ#
よくある質問#
Q. 越境ECで次に力を入れる国は、売上額のランキングで決めてはいけないのですか?
A. 出発点としては見てよいのですが、それだけで決めると伸びしろを見落とします。売上額が大きい国は、流入も多いことがほとんどで、「すでに売れている国」を映しているにすぎません。これから伸びる国は、まだ流入は少ないのに訪れた人がよく買ってくれる国——つまり効率(RPS)の高い国です。額のランキングに、効率の列を足して見てください。
Q. RPS(セッションあたり売上)とシェアは、どちらを見ればいいですか?
A. どちらか一方ではなく、2つを一緒に見ます。RPSは「1訪問あたりの買う力の濃さ」、シェアは「全体に占める大きさ」を表します。シェアは小さいのにRPSが高い国が、伸びしろの候補です。さらにセッション数と掛け合わせて、流入は少ないがRPSが高い「育成候補」を狙うと、次に投資すべき国がはっきりします。
Q. 国別のデータで、出せない数字はありますか?
A. あります。広告の費用対効果(ROAS)は国の絞り込みが効かないため、国別には出せません。注文1件あたりの単価(AOV)も国別の表には含まれず、国の軸で見えるのはセッション・売上・RPS・シェアまでです。原価を引いた利益や送料・関税も範囲の外です。また、IPから国を割り出せない訪問は Unknown として残るので、その分の幅も見込んでおきます。
まとめ#
越境ECの次の一手を、国別の売上「額」だけで決めると、見落とします。額が大きい国は、すでに売れている国を映すだけで、これから伸びる国までは教えてくれないからです。額の大きさには、集客の規模と買う力の濃さが混ざっています。
伸びしろは、効率で見ます。セッションあたり売上(RPS)とシェアを1画面で見比べ、さらにセッション数と掛け合わせて、流入は少ないのにRPSが高い「育成候補」を探します。まずは直近の国別データを取り上げて、シェア順の表に効率(RPS)の列を1本足してみてください。そこが見えると、なんとなく「売れている国へ」と寄せていた海外展開が、根拠のある一手に変わります。
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参考文献#
- [1] 経済産業省「電子商取引に関する市場調査」2024
- [2] Google アナリティクス ヘルプ「[ユーザー属性] と [地域] のディメンション」
- [3] IPinfo ドキュメント 2024



