「RPSの計算式は分かった。じゃあウチのRPS、業界平均と比べて高いんですか、低いんですか」。RPS(Revenue Per Session、セッション1回あたりの売上)の定義を解説したあと、EC事業者から最も多く返ってくる質問です。気持ちはよく分かります。自社のRPSが ¥120 だと分かっても、それが業種の真ん中なのか上位なのか下位なのかが分からなければ、「広告を増やすべきか、改善が先か」は決められないからです。
ただ、本記事で最初にお伝えしたいのは、少し違う見方です。「他社の業種平均と比べて安心する/不安になる」というやり方そのものが、思ったほど判断の役に立ちません。日本語のEC市場における業種別RPSの公開データはほとんど存在せず、海外指標を換算した推定値が出回っているだけで、しかもAOVやCVRの測り方は出典ごとにバラバラです。土台のそろっていない数字と比べても、出てくる結論はぐらつきます。本当に判断の役に立つのは、他社平均ではなく、自社の中でチャネルごと・新規とリピーターごとにRPSがどれだけばらついているかです。この記事では、5業種のざっくりした目安(外部推定)を正直に示したうえで、その見方へ立て直していきます。
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目次
この記事のまとめ#
- 業種平均と比べてRPSの高い低いを判断するやり方は、土台が弱いものです。RPSは業種で2〜10倍違いますが、日本向けの業種別RPSは公開データがほぼなく、出回っているのは海外指標の推定値で、AOVやCVRの測り方も出典ごとにそろっていません。バラバラの数字と比べても、結論はぐらつきます。
- だから本記事の業種別RPS(外部推定)は、あくまで「自分がどのあたりにいそうか」の当たりをつける参考に留めます。断定の材料にはしません。
- 本当に効くのは、他社平均ではなく自社の中を見ることです。検索・メール・SNS・広告といった入り口ごと、そして新規とリピーターごとにRPSを出すと、同じ会社の中でも売上効率は大きくばらつきます。その自社内のばらつきこそが、次にどのチャネルへ予算を寄せるかを決める材料になります。
1. なぜ「業種平均と比べる」だけでは判断を誤るか#
業種を無視した「全体平均RPS」での比較は、構造的に判断を狂わせます。理由は大きく3つです。
ひとつは、AOV(注文1件あたりの平均売上)の業種差です。家電1点の注文が ¥30,000 になることは珍しくありませんが、アパレルD2Cの1点平均は ¥6,000 前後、SaaS B2Bの初年度契約は ¥50,000〜¥500,000。AOVが10倍違えば、CVR(訪れた人のうち買った人の割合)が同じでもRPSは10倍違います。ふたつめは、そのCVRの業種差です。食品D2Cはリピート前提で 3〜5% が目安、家電は検討が長く 0.5〜1.5%、SaaS B2Bは見込み客化で 1〜3% とされ、ここでも3〜5倍の幅があります。みっつめは、セッション1回の重みの違いです。SaaSは何度も訪れて検討する長期型、アパレルは1回で決まる短期型、家電は価格比較サイト経由の複数訪問型。1セッションの意味が業種で違う以上、業種を混ぜた平均は意味を持ちません。RPSそのものの計算式はRPSの定義と出し方で整理しています。
ここまでは「だから業種をそろえて比べよう」という話に聞こえます。ですが、そろえようにも肝心の業種別データが頼りない、というのがもっと根の深い問題です。日本のEC事業者がそのまま使える業種別RPSの公開ベンチマークは、ほぼ存在しません。出回っているのは海外指標を円換算した推定値で、しかもAOVを全注文で取るのか自社EC限定か、CVRを全セッション基準にするのか商品ページ基準にするのかが、出典ごとにそろっていません。測り方の違う数字どうしを比べても、出てくる「高い・低い」は当てになりません。
つまり、業種平均との比較は、当たりをつける入り口としては使えても、それだけで予算配分まで決めると足をすくわれます。では何を見ればいいのか。先に外部の目安を正直に示し(第2章)、そのうえで判断の主役を「自社の中のばらつき」へ移します(第3章)。
2. 5業種のRPSざっくり目安#
まずは、当たりをつけるための外部の目安です。下表は海外公開ベンチマークと業種別の AOV × CVR を掛け合わせた推定モデルで、実測値ではありません。自分がどのあたりにいそうかの見当をつける程度に使ってください。

| 業種 | AOV中央値(円) | CV率中央値 | RPS中央値(推定) | RPS上位25%(推定) |
|---|---|---|---|---|
| アパレル/ファッション | ¥6,000 | 1.5% | ¥90 | ¥200 |
| 食品/D2C | ¥4,500 | 3.0% | ¥135 | ¥280 |
| コスメ/ビューティ | ¥5,500 | 2.0% | ¥110 | ¥250 |
| 家電/PC | ¥25,000 | 0.8% | ¥200 | ¥500 |
| SaaS B2B(初年度ARR) | ¥50,000 | 0.6% | ¥300 | ¥800 |
⚠️ この表の数値はすべて推定モデルによる業種代表値です。海外公開ベンチマーク(業種別EC指標)と日本市場の AOV × CVR レンジから組み立てた推定で、実測値ではありません。AOVは自社EC(D2Cドメイン)中央値の推定でモール売上は除外、CVRは全セッション基準です。SaaS B2B は公開ソースが乏しく業界一般指標からの推定で、特に幅があります。自社環境での実測検証が前提です。
業種ごとの素描だけ添えておきます。アパレルはAOVが低くトラフィック量で稼ぐ業種で、RPSは低めですがリピート率改善で上位帯に届きます。食品D2Cはリピート前提でCVRが高く、RPS中央値が業種で最も高い水準。コスメはサブスク化で安定する一方、初回のハードルがあります。家電はAOVが高くCVRが低い検討型で、1セッションの重みが大きい業種。SaaS B2Bは見込み客化からの2段階で見るのが標準です。
繰り返しますが、ここで自社のRPSが中央値より上か下かを確かめても、それは出発点にすぎません。掛け合わせの元になったAOVやCVRの測り方が自社とずれていれば、上下の判定自体が揺れます。次章で、判断の軸足を自社の中へ移します。
3. 自社RPSの出し方と「自社内のばらつき」で見る位置診断#
ここがこの記事のいちばんの読みどころです。やることは2つ。自社の全体RPSをいったん出すこと。そして、それを自社の中でチャネル別・新規/リピーター別に割って、ばらつきを見ること。後者が判断の主役になります。
自社の全体RPSは、難しくありません。考え方としては「ある期間の売上 ÷ 同じ期間のセッション数」です。GA4で購入データを計測する設定さえ入っていれば、月間の売上とセッション数は標準のレポートから読み取れます。期間は曜日のかたよりを吸収できる直近28日あたりが扱いやすいでしょう。ここは一度出して自分のおおよその水準を把握すれば十分で、毎月この全体値だけを業種平均とにらめっこしても、打ち手にはつながりません。RPSとCVRの関係を分けて見たいときはRPSとCVRの違いを参照してください。
本題は次です。全体RPSが ¥150 だったとして、その内訳は決して一様ではありません。検索(Organic)経由のRPSは高く、SNS経由は低く、メール経由はさらに高い——というように、同じ会社の中でも入り口ごとにRPSは大きくばらつきます。新規客とリピーターで割っても同じで、リピーターのRPSが新規の2〜3倍ということは普通に起こります。他社の業種平均と自社の全体値を1つの数字で比べるより、この自社内のばらつきを見るほうが、次の一手にずっと直結します。一番稼いでいる入り口と、一番稼いでいない入り口が分かれば、予算をどちらへ寄せるかは自然と決まるからです。

ここで1つ、見落とされがちな前提があります。bot(自動アクセス)の存在です。チャネル別のセッションには機械的なアクセスが混ざりやすく、特に広告やSNS経由はその影響を受けます。botを含んだままセッション数を分母にすると、RPSは実際より低く見え、入り口の良し悪しの判断を狂わせます。だから自社内のばらつきは、botを除いた人間のセッションだけで出す。これが前提です。なお、増減の前期比まで丁寧に追いたいときは、チャネル単位ではなくページやキーワード単位で見るのが筋です(チャネル別の前期比は土台が薄く、断定に向きません)。
考え方そのものは、むずかしくありません。むずかしいのは、これを毎月、入り口ごと・新規リピーターごとに、botを除いたうえで手作業で集計し続けることです。流入のデータ、注文のデータ、売上のデータは別々の場所にあり、突き合わせて1画面にまとめ直すだけで、肝心の判断にたどり着く前に力尽きます。シンプルな考え方なのに、続けるほど重くなるのです。
4. 業種平均より下/上、それぞれの次の一手#
自社内のばらつきが見えると、次の一手は2つの場合に分かれます。
自社の全体RPSが業種の目安を下回っていそうなら、まず効率の悪い入り口の中身を疑います。やることは、CVRを上げるか、AOVを上げるかの切り分けです。CVRはチェックアウトの簡素化やカート離脱対策で動きやすく、AOVは送料無料の閾値調整やクロスセルで動きます。ただし送料無料の閾値引き上げは、あと少しで届かなかった人を取りこぼしてCVRを下げることがあり、AOV↑×CVR↓で結局RPSが下がる場合もあるので、必ずセットで見ます。AOVを動かす具体策は客単価(AOV)の上げ方に整理しています。
目安を上回っていそうなら、予算拡大のフェーズです。ここで効くのが、第3章で見た自社内のばらつきです。全体RPSが高くても、その中には稼ぐ入り口と稼がない入り口が混ざっています。RPSの高い入り口へ予算を寄せ、低い入り口は改善か縮小か撤退かを決める。これが、他社平均を眺めていても絶対に出てこない、自社データだからこその判断です。複数指標を1枚で見たいときは売上ダッシュボードの設計も参考になります。
もう1つ、RPSだけでは予算判断は完結しないことも添えておきます。RPSは集客の効率(セッション1回あたりの売上)を測りますが、広告費の回収まで含めて見るにはROAS(広告費1円あたりの売上回収)と組み合わせます。

RPSが高くROASも高い入り口は拡大の判断、RPSが高いのにROASが低い入り口はトラフィックを増やせば伸びる余地、RPSが低くROASが高いならCVR/AOV改善で大きく動く余地、両方低ければ見直しか撤退。2軸で見て初めて、予算配分の精度が上がります。ROASの計算や目安はROAS完全ガイドで扱っています。
RevenueScopeの解決策
ここまでの見方をなぞると、結局ぶつかるのは同じ壁です。判断に効くのは自社内のばらつき——入り口ごと・新規リピーターごとのRPSを、botを除いて見ること——だと分かっているのに、そのための数字が複数の場所に散らばっていて、毎月まとめ直さないと見えてこない。GA4は来訪を起点に組まれているので、流入元ごとのRPSを毎月手作業で1画面に整理し直すのは、率直に重い作業です。
RevenueScope は、その散らばった数字を売上起点で1画面に集約し、チャネル別・新規/リピーター別のRPSを、botを除いた人間のセッションだけで返します(表示はデモデータ)。
| RSに聞くこと | デフォルトでこう返る |
|---|---|
| チャネル別RPS | 検索 ¥185/メール ¥420/SNS ¥75/広告 ¥140(bot除外後) |
| 新規 vs リピーター別RPS | 新規 ¥110/リピーター ¥260 |
| bot除外後の人間セッション数 | 全体 15,300 のうち bot 2,100 を除いた 13,200 |
この画面のいちばんの読みどころは、全体RPSという1つの数字には出てこない差です。メールはRPSが高いのにセッションが少なく、SNSはセッションが多いのにRPSが低い。リピーターは新規の2倍以上稼いでいる。ここから次の一手が見えてきます。メールやリピーター施策へ寄せ、SNSは中身を見直す——という見立てです。他社の業種平均と全体値を1つずつ照らし合わせていたら、まず気づけません。
ひとつ、はっきりさせておきます。RevenueScope が出すのは、売上・客単価(AOV)・転換率(CVR)・セッションあたり売上(RPS)と、それをチャネル別・新規リピーター別・ページ別などに分けた内訳までです。チャネル別はRPSで返し、AOVはキャンペーン単位での内訳になります。そして、業種横断のベンチマークは RevenueScope は出しません。あくまで自社1サイトの実データを返す道具で、第2章のような業種別の目安は外部推定の世界の話です。原価を引いた利益や在庫も範囲外です。材料はそろえますが、どこへいくら寄せるかの最終判断は、あなたが下します。
FAQ#
よくある質問#
Q. 自社のRPSは業種平均より低いのですが、改善すべきということですか。
A. すぐにそうとは言えません。本記事の業種別RPSは外部公開データからの推定モデルで、AOVやCVRの測り方が自社とそろっているとは限りません。土台の違う数字と比べた「低い」は、当てになりにくいものです。まずは自社の中を見てください。チャネル別・新規リピーター別にRPSを出すと、全体が低くても特定の入り口だけが足を引っ張っている、というのはよくあります。直すべきは「全体」ではなく、その入り口です。
Q. チャネルごとのRPSを出すとき、何に気をつければいいですか。
A. bot(自動アクセス)を除くことです。チャネル別のセッションには機械的なアクセスが混ざりやすく、特に広告やSNS経由で影響が出ます。botを含んだままだとセッション数の分母がふくらみ、RPSが実際より低く見えて、入り口の良し悪しの判断を誤ります。人間のセッションだけで計算してください。なお増減を前期比で追うなら、チャネル単位よりページやキーワード単位のほうが土台が確かです。
Q. RPSが高ければ、そのチャネルへ予算を増やしていいですか。
A. RPSだけでは決めきれません。RPSは集客の効率を測りますが、広告費の回収まで見るにはROASと組み合わせます。RPSもROASも高い入り口は拡大の判断、RPSは高いがROASが低い入り口はトラフィックを増やせば伸びる余地、という具合に、2軸で見て初めて予算配分の精度が上がります。
まとめ#
業種平均と比べてRPSの高い低いを判断するやり方は、入り口として使えても、それだけで予算を決めると足をすくわれます。日本向けの業種別RPSは公開データがほぼなく、出回っているのは海外指標の推定値で、AOVやCVRの測り方もそろっていないからです。本記事の5業種の目安も、あくまで当たりをつける参考に留めてください。
本当に効くのは、他社平均ではなく自社の中を見ることです。検索・メール・SNS・広告といった入り口ごと、新規とリピーターごとにRPSを、botを除いて出してみる。同じ会社の中でも売上効率は大きくばらつき、そのばらつきこそが、次にどこへ予算を寄せるかを教えてくれます。まずは直近1ヶ月で、全体RPSを1つ出すのではなく、入り口を3つか4つに割って見比べてみてください。そこが見えると、他社平均を気にして揺れていたRPSが、自社の予算を動かす根拠に変わります。
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参考文献#
- [1] 経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査」2025年8月
- [2] Baymard Institute「E-Commerce Cart & Checkout Usability Research」2024年
本記事の業種別RPS数値(第2章)は、海外公開のEC業種別ベンチマーク(Yotpo / IRP Commerce / Dynamic Yield 等が公表する業種別指標)と、日本市場の業種別 AOV × CVR レンジを掛け合わせた推定モデルです。各出典の日本市場への適合度は未検証のため、出典名の提示に留め、個別数値の断定には用いていません。SaaS B2B は公開ソースが乏しく業界一般指標からの推定です。いずれも自社環境での実測検証が前提です。






