「RPSの計算式は分かった。じゃあウチのRPS、業界平均と比べて高いんですか、低いんですか?」。第13セットでRPS(Revenue Per Session)の定義と計算式を解説した直後、EC事業者から最も多く返ってきた質問です。
自社のRPSが ¥120 と分かっても、それが業種の中央値なのか、上位25%なのか、下位25%なのかが分からなければ、「広告予算を増やすべきか・改善余地があるか」の意思決定はできません。広告投資判断の入り口は「自社の位置を知る」ことです。
しかし、日本語のEC市場における業種別RPSベンチマークは、ほぼ存在しません。海外の Wolfgang Digital KPI Report・IRP Commerce・Dynamic Yield・Yotpo 等が業種別データを公開していますが、日本市場のEC事業者がそのまま参照するには通貨換算・市場特性のズレが残ります。本記事では、海外公開データと業種別 AOV × CV率の推定モデル を組み合わせて、日本のEC事業者が自社のRPSを位置づけるための基準値を整理します。
⚠️ 本記事の数値は推定モデルによる業種代表値です。実測値ではありません。自社環境で要検証。出典は記事末尾の参考文献を参照してください。
この記事のまとめ#
- RPSは業種で2〜10倍違う。アパレル ¥80〜120/食品D2C ¥130〜180/コスメ ¥100〜140/家電 ¥180〜300/SaaS B2B ¥300〜800(中央値)。AOVとCVRの業種特性が掛け算で効くため、業種を無視した「平均RPS」での比較は意思決定を誤らせる
- 自社RPSの「位置」が広告判断の起点。業種中央値の80%未満ならCVR/AOV改善優先、120%超なら広告予算拡大の余地あり、200%超ならチャネル横展開フェーズ。自社RPS÷業種中央値=効率比 で1.0未満/1.0〜1.5/1.5超の3段階判定
- 業種別RPSは「単一指標」では機能しない。RPS×ROASを併用して初めて「効率の良い投資」と「ロスのない予算配分」が同時に判定できる。RPSは集客効率、ROASは投資回収。両軸で見て初めて広告予算の最適配分が可能 になる
1. なぜ業種別比較が必要か — 「全体平均RPS」が誤判断を生む3つの構造#
業種別比較の必要性は、単に「業種ごとに数値が違うから」だけではありません。業種を無視したRPS比較は、構造的に誤判断を生みます。
構造1:AOV業種差が10倍以上#
業種別の平均注文額(AOV)には、構造的な差があります。家電1点の注文が ¥30,000 になることは珍しくありませんが、アパレルD2Cの1点平均は ¥6,000 前後。SaaS B2Bの初年度契約額は ¥50,000〜¥500,000。AOVが10倍違えば、CVRが同じでもRPSは10倍違います。
構造2:CVR業種差が3〜5倍#
CVRも業種で大きく異なります。食品D2Cはリピート購入が前提のため CVR 3〜5%が目安、家電は検討期間が長く CVR 0.5〜1.5%、SaaS B2Bは Visitor-to-Lead で 1〜3%が業界一般指標とされます。CVRも3〜5倍の幅があります。
構造3:セッション質の業種差#
セッション1回の意味も業種で違います。SaaS B2Bは導入検討で何度も訪問する「長期検討型」、アパレルは衝動購入で1回完結が多い「短期判断型」、家電は価格比較サイト経由で複数訪問する「比較検討型」。「セッション1回の重み」が業種で異なる 以上、業種を無視したRPS平均は意味を持ちません。
「全体平均RPS」が広告判断を歪める例#
仮にあるECの全体平均RPSが ¥150 だったとします。アパレルD2Cの単独事業者なら「業種中央値 ¥100 を超えている=優秀」と判定できますが、家電単独事業者なら「業種中央値 ¥250 を下回っている=改善余地あり」と判定すべき —— 同じ ¥150 でも判断が真逆になります。業種を無視した「全体平均」での比較は、広告予算配分を誤らせる典型例です。
2. 5業種のRPS中央値・上位25%#
ここから本題です。日本のEC事業者が自社の位置を知るための、5業種のRPS基準値を提示します。

| 業種 | AOV中央値(円) | CV率中央値 | RPS中央値 | RPS上位25% | 主要データ源 |
|---|---|---|---|---|---|
| アパレル/ファッション | ¥6,000 | 1.5% | ¥90 | ¥200 | Yotpo 2025[1]・経産省EC市場[4] |
| 食品/D2C | ¥4,500 | 3.0% | ¥135 | ¥280 | IRP Commerce 2025[2] |
| コスメ/ビューティ | ¥5,500 | 2.0% | ¥110 | ¥250 | Dynamic Yield 2025[3] |
| 家電/PC | ¥25,000 | 0.8% | ¥200 | ¥500 | Dynamic Yield 2025[3] |
| SaaS B2B(初年度ARR) | ¥50,000 | 0.6% | ¥300 | ¥800 | 業界一般指標 |
※ AOVは 自社EC(D2Cドメイン)中央値推定 ・モール売上(楽天/Yahoo!)は除外 ※ CVRは 全セッション基準(商品ページCVRではない)・セッション = RPS分母と一致 ※ SaaS B2B は公開ソース不足のため業界一般指標から推定。自社環境での実測検証必須 ※ 出典詳細は記事末尾の参考文献参照
業種別の特徴#
- アパレル:AOV低・CVR中。トラフィック量で稼ぐ業種。RPS低めだが、リピート率改善で上位25%(¥200)到達可能
- 食品/D2C:AOV低・CVR高。リピート前提のため初回CV率が高く、RPS中央値が業種で最も高い水準
- コスメ:AOV中・CVR中。サブスク化で安定するが、初回ハードルがある業種
- 家電:AOV高・CVR低。検討期間が長く、1セッションあたりの重みが大きい。SEO/比較サイトでの可視化が鍵
- SaaS B2B:AOV超高・CVR低。Visitor-to-Lead → Lead-to-Customer の2段ファネルで分析するのが標準
3. 自社RPSの算出と位置診断 — 4ステップ#
自社のRPSを算出し、業種中央値と比較する4ステップを解説します。
ステップ1:GA4で月間Revenue・Sessionsを取得#
GA4の標準レポートで以下を取得:
- 「収益化」→「eコマース購入数」→ 合計収益(purchase)
- 「ライフサイクル」→「集客」→「すべての参照元」→ セッション
期間は直近1ヶ月(28日推奨。月次の曜日変動を吸収するため)。
ステップ2:RPS = Revenue ÷ Sessions#
RPS = 月間 Revenue ÷ 月間 Sessions
例:月間 Revenue ¥1,500,000 / 月間 Sessions 12,000 → RPS = ¥125
ステップ3:本表で業種中央値を確認#
ステップ2の数値(例:¥125)を、第2章の表で自社業種の中央値と上位25%と比較:
- アパレルなら:中央値 ¥90 / 上位25% ¥200 → ¥125 は中央値と上位25%の中間
- 食品D2Cなら:中央値 ¥135 / 上位25% ¥280 → ¥125 は中央値の92%(やや下)
ステップ4:効率比=自社RPS ÷ 業種中央値#

| 効率比 | 判定 | 推奨アクション |
|---|---|---|
| 0.5未満 | 大幅に下回る | チャネル別RPSで原因特定。CVR/AOVのどちらが業種平均から外れているかを切り分け |
| 0.5〜0.8 | 業種平均以下 | CVR改善(フォーム最適化・カゴ落ち対策)または AOV向上(送料無料閾値・クロスセル)を優先 |
| 0.8〜1.2 | 業種平均並み | 現状維持+上位25%へのギャップ要因分析 |
| 1.2〜1.5 | 業種平均以上 | 広告予算拡大の余地あり。チャネル別RPSで効率の高いチャネルへ予算シフト |
| 1.5〜2.0 | 上位25%水準 | 新規広告チャネル試験運用フェーズ |
| 2.0超 | 業種トップ層 | チャネル横展開・新市場開拓フェーズ |
4. 業界平均以下のRPSをどう改善するか — 3つの優先順位#
効率比 0.5〜0.8 の事業者向けに、改善打ち手を優先順位順で整理します。
優先1:CVR改善(最も投資対効果が高い)#
CVR 1.5% を 2.0% に引き上げれば、RPSは33%上がります。AOV向上より早く効果が出るのがCVR改善の特徴。打ち手:
- チェックアウトフロー最適化:フォーム項目数・必須/任意の見直し・住所自動入力
- カゴ落ち対策:カート保存・離脱メール・残り在庫表示
- 再訪促進:閲覧履歴・お気に入り保存・メルマガ会員化
Baymard Institute の研究[5]によれば、チェックアウトプロセスの最適化だけでCVRが平均35.26%改善する事例があります。
優先2:AOV向上(リピート前提なら効果大)#
CVRを動かさずAOVを上げる打ち手:
- 送料無料閾値の段階引き上げ:¥5,000 → ¥6,000(CVR下落しない範囲で段階的に)
- クロスセル:購入直前に関連商品提示
- バンドル割引:3点以上で20%割引等
ただし、送料無料閾値の引き上げは 「あと ¥X で送料無料」のところまで届かなかった顧客が離脱 すれば、CVRが下がります。AOV ↑ × CVR ↓ で結果RPSが下がるリスクがあるため、必ずCVR推移と併せて監視します。
優先3:セッション質改善(長期投資)#
広告ターゲティングのリファインや、LP最適化でセッション質を改善する施策。即効性は低いが、長期的にRPSが上がります。
- 広告ターゲティングの絞り込み:購買意欲の高いオーディエンスへの限定配信
- LP/商品ページのコンテンツ強化:商品詳細・レビュー・FAQ
- チャネル別の予算再配分:低RPSチャネルから高RPSチャネルへ
5. 業界平均以上のRPSなら次の打ち手 — 広告予算拡大判断#
効率比 1.2〜2.0 の事業者は、広告予算拡大フェーズ に入っています。次の打ち手は「どのチャネルに、いくら追加投下するか」の判断です。
チャネル別RPS分析が必須#
全体RPSが ¥150 でも、Google広告 RPS ¥200・Meta広告 RPS ¥80 の内訳ならば、Meta広告の予算をGoogle広告にシフトすべきです。チャネル別RPSで効率の差を可視化 し、高RPSチャネルへ予算を集中させます。
高RPSチャネルへの予算拡大手順#
- チャネル別RPSで上位3チャネルを特定(Google広告・Meta広告・Organic Search 等)
- 現状の予算配分と RPS×セッション数 のクロスチェック
- 高RPSチャネルへの月予算+20%試験投下
- 2週間後の RPS推移を確認 → RPSが維持されていれば本格拡大
新規広告チャネル試験運用#
効率比 1.5以上で安定している場合、新規チャネル開拓に踏み込む段階です。TikTok広告・Pinterest広告・LinkedIn広告(B2B)等、業種特性に合う未着手チャネル で月予算 ¥100,000〜¥300,000 程度の試験運用から始めます。
6. RPS×ROAS 併用が広告判断の精度を上げる#
RPSは強力な指標ですが、RPS単独では広告判断は完結しません。RPS×ROAS の併用で初めて「効率高くロスない投資」が実現します。
RPSとROASの役割分担#
| 指標 | 何を測るか | 判断軸 |
|---|---|---|
| RPS(Revenue Per Session) | 集客効率 | 「セッション1回あたりの売上効率」 |
| ROAS(Return on Ad Spend) | 投資回収 | 「広告費1円あたりの売上回収」 |
4象限での判定#

| ROAS \ RPS | RPS高 | RPS低 |
|---|---|---|
| ROAS高 | 🟢 拡大投資(理想形) | 🟡 セッション増えれば伸びる(広告ではなくSEO投資) |
| ROAS低 | 🟡 効率改善余地(CVR/AOV改善) | 🔴 撤退検討 |
- 🟢 RPS高×ROAS高:理想形。チャネル予算を拡大する判断
- 🟡 RPS高×ROAS低:トラフィックが少なく単価高い。SEO/Organic強化で伸びる
- 🟡 RPS低×ROAS高:トラフィック多いが効率低い。CVR/AOV改善で大幅改善可能
- 🔴 RPS低×ROAS低:そのチャネルからの撤退または抜本的見直し
ROASの計算式・業種別目安・改善の打ち手については ROAS計算式 完全ガイド と ROASとは|広告費の回収効率を測る指標 を参照してください。
7. 業種別RPSベンチマークの限界と運用上の注意#
本記事の業種別RPS基準値は 判断の出発点 であり、これだけで施策決定するものではありません。3つの注意点を挙げます。
注意1:単月 vs 年間平均#
RPSは月次変動が大きい指標です。アパレルなら冬・夏セール月、食品D2Cなら年末年始、家電なら新生活シーズンで RPS が大きく動きます。単月のRPSと年間平均RPSを混同しないこと。本記事の中央値は年間平均ベースです。
注意2:ブランドフェーズによる変動#
新規ブランド立ち上げ期と成熟期では、同じ業種でもRPS構造が違います。新規期は 低CVR・高AOV(ヘビーユーザーがコアカスタマー)、成熟期は 中CVR・中AOV(一般顧客への裾野拡大)になりがち。フェーズを揃えた比較が必要です。
注意3:セッション定義の揺れ#
GA4・Shopify・自社DBで「セッション」の定義は微妙に違います。GA4 はデフォルトで30分無操作で新セッション、Shopify は同一日内のCookie継続でセッション継続。異なるツール間でRPSを比較するときは、セッション定義の違いをまず確認 する必要があります。
本記事の関連トピックは /news でも扱っています。
- 広告チャネルごとの売上効率を比べる指標、RPS(Revenue Per Session)— 計算式・実例・GA4での出し方
- 売上ダッシュボード設計の正解|EC事業者向け5指標と業種別テンプレ
- ROAS計算式 完全ガイド|計算方法・業種別目安・改善の打ち手【EC事業者向け】
- 客単価(AOV)の正しい計算と上げ方|売上分解式から逆引きする10の打ち手
参考文献#
[1] Yotpo 「Fashion & Luxury eCommerce Benchmarks 2025」 2025年2月
[2] IRP Commerce 「Ecommerce Market Data & Benchmarks 2025」 2025年3月
[3] Dynamic Yield 「eCommerce Industry Benchmarks 2025」 2025年1月
[4] 経済産業省 「令和6年度電子商取引に関する市場調査」 2025年8月
[5] Baymard Institute 「E-Commerce Cart & Checkout Usability Research」 2024年
上記推定モデルの根拠:日本EC市場調査・業種別実勢レンジ。SaaS B2B は公開ソース不足のため業界一般指標推定。
