「Google 広告と Meta 広告、同じ予算でどちらが効率的か」。EC 事業者から毎週のように受ける問いです。多くの事業者は 訪問数(セッション数) で比べていますが、これでは判断を誤ります。広告チャネルごとの 売上効率 を比較する唯一の指標が RPS(Revenue Per Session・訪問あたり売上) です。
本記事では RPS の計算式・GA4 での出し方・AOV / CVR との関係・運用上の落とし穴までを、実務目線で整理します。
まとめ解説動画
この記事のまとめ#
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RPS = 売上 ÷ 訪問数 (セッション数)
客単価 (AOV) と購入率 (CVR) を統合した、広告投資判断の唯一の軸
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AOV だけ・CVR だけを見ると施策効果を誤判定する
送料無料閾値 ↑ で「AOV ↑ / CVR ↓」 が起きると、AOV 単独では改善でも RPS は下がる
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チャネル別 RPS で広告 ROI を判定
Google 広告 RPS ¥120 / Meta 広告 RPS ¥80 なら、同予算で Google が 1.5 倍効率的
1.RPSの定義と計算式#
RPS は 訪問 1 回あたりの平均売上 です。
RPS = 売上 ÷ 訪問数(セッション数)
訪問 10,000・売上 ¥1,200,000 なら RPS は ¥120。「サイト訪問 1 回あたり、平均で ¥120 稼いでいる」 を表します。
客単価(AOV)・購入率(CVR)との関係#
RPS は AOV と CVR の積として分解できます。
RPS = AOV × CVR
たとえば AOV ¥6,000・CVR 2.0% なら、RPS は ¥6,000 × 0.02 = ¥120。これは「RPS を動かす方法は『客単価を上げる』 か『購入率を上げる』 の 2 つしかない」 ことを意味します。逆に言えば訪問数が増えても、AOV も CVR も変わらなければ RPS は 1 円も動きません — 訪問数を増やすだけの施策は RPS の観点では中立 です。
業界での呼称#
RPS は Revenue Per Visit(RPV)/ Average Revenue Per Session(ARPS)/ Revenue Per User(RPU)など、プラットフォームで微妙に違う名前で呼ばれます。GA4 公式では「Average purchase revenue per user(ユーザーあたり平均購入収益)」 として定義されており[1]、分母がユーザー単位の点で RPS と少し異なります。本記事では実務で扱いやすい「訪問単位」 を採用し RPS と表記します。
2.単独指標は罠—3つの誤解#
RPS が必要な理由は、単独指標を最大化する施策が 別の指標を犠牲にする 構造にあります。
誤解1:「訪問数を増やせば売上が伸びる」#
予算を倍にして訪問数が倍になっても、RPS が半分なら売上は変わりません。新規広告チャネル追加で質の異なる訪問が増え、CVR が下がる現象は典型例です。売上 = 訪問数 × RPS で、訪問数を見るだけでは売上判断はできません。
誤解2:「CVRが最重要KPI」#
CVR 最適化は重要ですが単独では誤判定します。バンドル割引で CVR を上げると AOV が下がり、CVR ↑ × AOV ↓ で RPS は下がることがあります。Baymard Institute のチェックアウト調査[2] でも、CVR 改善策と AOV / 利益率のバランスが取れていないと事業全体で逆効果になる事例が示されています。
誤解3:「AOVを上げれば良い」#
送料無料閾値を $50 → $100 に引き上げれば AOV は上がるかもしれませんが、「あと $20 で送料無料」 のところで離脱する顧客が増えれば CVR は下がります。AOV ↑ × CVR ↓ で、結局 RPS は下がります。
3指標の相互作用—統合判定がRPS#
| 指標 | 動かし方 | 副作用が出やすい指標 | 統合判定 |
|---|---|---|---|
| 訪問数 | 広告投下 / SEO | RPS(質の異なる流入で低下) | RPS |
| CVR(購入率) | UX 改善 / 割引 | AOV(割引で AOV 低下) | RPS |
| AOV(客単価) | 閾値 / バンドル | CVR(閾値超えで離脱) | RPS |
3 指標すべてが揃って動いて初めて売上が伸びます。RPS はこの相互作用を 1 つの数字に統合する軸です。
3.RPSの算出方法—GA4/Shopify/自社DB#
GA4で出す方法#
GA4 の標準レポートには「Revenue Per Session」 という指標がありません。「Average purchase revenue per user」 はありますが ユーザー単位 で訪問単位ではありません[1]。訪問単位の RPS は探索レポート(Explorations)でカスタム計算が必要です:
RPS = 合計収益(purchase)÷ 訪問数(全訪問・購入訪問だけでなく)
GA4 標準レポートは「購入した訪問」 と「全訪問」 を同時に出しにくく、探索レポートで自前のクエリを組まない限り出ない のが実情です。
Shopify管理画面#
Shopify Analytics には「Total sales」「Conversion rate」「AOV」 はありますが RPS はありません。「Total sales ÷ Total sessions」 を手動計算する必要があります。
自社DB(最も柔軟)#
売上データと訪問ログを Postgres / BigQuery / Snowflake などに集約していれば、SQL 1 本でチャネル別 RPS が出せます。
SELECT
channel,
SUM(revenue) / COUNT(DISTINCT session_id) AS rps
FROM
sessions s
LEFT JOIN
orders o ON s.session_id = o.session_id
GROUP BY
channel
RPS の真価はチャネル別比較で発揮される ので、この粒度を扱える環境がデータドリブンな広告予算配分の鍵です。
4.実例3つ—RPSで見ると判定が変わる#
実例1:送料無料閾値の引き上げ(AOV重視の罠)#
D2C ブランドが送料無料閾値を ¥5,000 → ¥8,000 に変更:
| 指標 | 変更前 | 変更後 | 増減 |
|---|---|---|---|
| AOV | ¥6,200 | ¥7,400 | +19% |
| CVR | 2.4% | 1.8% | -25% |
| RPS | ¥149 | ¥133 | -11% |
AOV だけ見れば「+19% で大成功」 ですが、RPS は -11% の悪化。事業全体としては売上が下がる施策でした。
実例2:チャネル別比較(広告予算配分)#
同じ予算 ¥1,000,000 を 3 チャネルに投下:
| チャネル | 訪問数 | 売上 | RPS | 効率 |
|---|---|---|---|---|
| Google 広告 | 8,000 | ¥960,000 | ¥120 | 基準 |
| Meta 広告 | 12,000 | ¥960,000 | ¥80 | -33% |
| TikTok 広告 | 20,000 | ¥800,000 | ¥40 | -67% |
訪問数なら TikTok 圧勝、RPS なら Google が 3 倍効率的。広告予算配分は RPS で判定すべき という事実が見えます。
実例3:バンドル割引(AOVとCVRが同方向に動く)#
雑貨 EC で 3 点バンドル 20% 割引を導入:
| 指標 | 変更前 | 変更後 | 増減 |
|---|---|---|---|
| AOV | ¥4,800 | ¥5,200 | +8% |
| CVR | 2.0% | 2.6% | +30% |
| RPS | ¥96 | ¥135 | +41% |
AOV も CVR も両方プラスで RPS は大幅改善。AOV と CVR が同方向に動いた時 に RPS は劇的に伸びます。
5.RPSの運用注意点3つ#
注意1:訪問の定義の揺れ#
GA4・Shopify・自社 DB で「訪問」 の定義は微妙に違います[1]。GA4 はデフォルト 30 分無操作で新訪問、Shopify は同一日内の Cookie 継続、自社 DB は設計次第。異なるツール間で RPS を比較するときは、訪問定義の違いをまず確認 してください。
注意2:マルチタッチ問題#
ラストクリック計測で RPS を出すと、Brand 検索や Direct 訪問の RPS が過大評価されます。広告経由で認知 → 後日 Direct で購入のパターンでは、広告の貢献が Direct の RPS に乗ります。チャネル別 RPS を広告判断に使う時は アトリビューションモデル(最初の広告・最後の広告・全体均等など分析の見方)を統一 する必要があります。
注意3:返品・キャンセルの反映タイミング#
Shopify や GA4 の RPS は注文発生時点の売上で計算されることが多く、後日の返品・キャンセルが反映されないことがあります。アパレル等の返品率が高い業種では 実質 RPS(返品調整後)と表面 RPS(注文時点)の乖離 が大きくなります。広告 ROI 判定には実質 RPS が必要です。
RevenueScopeの解決策
RPS の本当の価値は、チャネルごとに並べて比べたときに出ます。けれど、GA4 や各広告媒体の管理画面は、RPS を「チャネル横断で同じ物差し」 ではそろえてくれません。媒体ごとにバラバラの基準で、訪問数や売上の絶対額が前面に出てきます。
RevenueScope は、自前のトラッキングで重複を取り除いたチャネル別の実売上を、RPS・AOV・CVR とそろえて1つの画面で見せます。広告費は入力させません。あくまで自社の実売上を起点に、どのチャネルが「効率よく売れているか」 を共通の物差しで並べます。

RevenueScope のダッシュボード(表示はデモデータ)。チャネル別の RPS・客単価・購入率を横並びにし、売上の大きさでなく効率で見分ける。
たとえば上の画面を読んでみます。売上の絶対額がいちばん大きいのは Instagram(¥1.7M)です。けれど RPS で見ると、Instagram は ¥210 で最下位。逆に、売上は小さいメルマガ(¥276K)が RPS ¥345 で最上位です。セッション数や売上の大きさだけ見ていたら「Instagram がエース」 と判断してしまいます。けれど RPS で並べると、「いちばん効率よく売れているのはメルマガ」 だと一目で分かります。
さらにメルマガの行を開くと、施策ごとの差まで見えます。新商品案内は購入率 9.2%、会員クーポンは 5.4%。同じチャネルの中でも、どの施策に予算を寄せるかを RPS と購入率で判断できます。GA4 で手計算する手間なく、RPS を「比べられる状態」 で持てる。これが、訪問数の罠を避けて広告予算を正しく動かすための次の一手です。
6.よくある質問#
Q1.GA4では本当にRPSを出せない?#
標準レポートでは出ません。探索レポート(Explorations)で「合計収益 ÷ セッション数」 のカスタム計算を組めば出せます[1]。標準でないため運用負荷は高めです。
Q2.RPSとユーザーあたり売上(ARPU)はどちらが正しい?#
用途次第です。RPS(訪問単位)は 広告チャネル別の効率 に強く、ARPU(ユーザー単位)は LTV / リピート評価 に強い。EC の広告投資判断には RPS が標準的です。
Q3.RPSの目標値は業種でどう違う?#
EC 業界平均は ¥50〜¥200 程度ですが、客単価が高い業種(家具・高級雑貨等)は ¥300 超、客単価が低い業種(消耗品 EC 等)は ¥50 未満も普通です。自社過去データの推移 が最も信頼できるベンチマークです。
Q4.アトリビューションを変えるとRPSは変わる?#
変わります。ラストクリック / ファーストクリック / 全体均等で各チャネルの売上配分が変わり、結果としてチャネル別 RPS も変わります。比較する際は 同一モデルで統一 が必須です(GA4 のラストクリック信仰の罠)。
まとめ#
売上 = 訪問数(セッション数)× RPS
シンプルな式ですが、この式に「予算配分」 と「施策効果」 の全てが入っています。
- 訪問数を増やす施策(SEO / 広告)→ 訪問数を動かす
- 客単価を上げる施策(バンドル / 閾値)→ AOV 経由で RPS を動かす
- 購入率を上げる施策(UX / LP 最適化)→ CVR 経由で RPS を動かす
経済産業省の EC 市場調査[3] では、日本の BtoC EC 市場は 2024 年時点で 26 兆 1,225 億円規模。これだけの市場でも RPS を主要 KPI として運用する事業者はごく一部です。RPS を早期に導入した事業者には、競合との差別化余地が残されています。
関連記事#
- 客単価(AOV)の正しい計算と上げ方|売上分解式から逆引きする 10 の打ち手
- GA4 は売上を見るツールではない — アトリビューションの盲点
- GA4 のラストクリック信仰の罠
- マーケティング KPI 設計の正解
参考文献#
[1] Google 「Analytics dimensions and metrics — Average purchase revenue per user」 2025 年
[2] Baymard Institute 「E-Commerce Cart & Checkout Usability Research」 2024 年
[3] 経済産業省 「令和 6 年度電子商取引に関する市場調査」 2025 年 8 月
