「Instagram広告のROAS(広告費1円あたりの売上倍率)が低いから、来月から削ろう」 — 広告レポートを見て、こんな判断をしたことはありませんか?その判断、もしかすると事業の売上基盤を削っているかもしれません。
なぜなら、多くのEC事業者が頼りにしているラストクリックアトリビューションは、ユーザーのジャーニー全体を見ていないからです。本記事では、ラストクリックの限界と、それを補うマルチタッチアトリビューションの考え方、そして4つの代表的なモデルの使い分けを整理します。
この記事のまとめ#
- ラストクリックは購入直結の評価には良いが、認知・比較段階のチャネル貢献をゼロ評価する
- マルチタッチには4モデル(ラスト/ファースト/リニア/タイムディケイ)があり、それぞれ違う問いに答える
- 「何を知りたいか」を先に決めてからモデルを選ぶのが正しい使い方
1. ラストクリックは何を見ているか#
ラストクリックアトリビューションは、最もシンプルで分かりやすい売上配分の考え方です。
「購入直前のセッションで流入したチャネルに、売上を100%帰属させる」
たとえば、ユーザーが指名検索で訪れて購入したなら、その売上は全額「Direct(指名検索)」のもの。Google検索広告から流入して購入したなら、全額「Google検索広告」のもの。シンプルで集計も簡単。多くのアクセス解析ツールがデフォルトで採用しています。
このシンプルさが大きな利点です。レポートを見れば「どのチャネルが直接購入を生んだか」が一目で分かる。広告運用の評価指標として広く使われている理由は、まさにこの直感性にあります。
問題は、この直感が現実のユーザー行動とは食い違うことが多い ということです。
2. ラストクリックが嘘をつく瞬間#
具体的なシーンで考えてみましょう。次のようなジャーニーを思い浮かべてください。
火曜日にInstagram広告で商品を認知 → 木曜日にGoogle検索で商品名を比較 → 土曜日に指名検索で訪問して購入
このジャーニーで「売上を作ったのはどのチャネルか?」と聞かれたら、多くの人はこう答えるはずです。「Instagramが認知を作り、Googleが比較を後押しし、最後は指名検索で決まった」。3つのチャネルが連携して購入を生んだ、と。
ところがラストクリックでは、この売上は100%『Direct(指名検索)』に帰属します。Instagram広告とGoogle検索の貢献はゼロ評価です。
これがどんな意思決定を生むか、架空の数値例で見てみましょう。あるECサイトの月間売上が600万円。広告費はInstagram 20万円、Google検索 10万円。ラストクリックで集計するとこうなります。
| チャネル | ラストクリック売上 | 広告費 | ROAS |
|---|---|---|---|
| Google検索 | 450万円 | 10万円 | 45倍 |
| 30万円 | 20万円 | 1.5倍 | |
| Direct | 120万円 | 0円 | — |
この数字だけを見ると「Instagramを削ってGoogle検索に寄せるべき」という結論になります。実際、多くの事業者がこの判断をしてしまいます。
ところが同じデータをファーストタッチ(最初の流入チャネルに帰属)で再集計すると、景色が一変します。
| チャネル | ファーストタッチ売上 | 広告費 | ROAS |
|---|---|---|---|
| Google検索 | 180万円 | 10万円 | 18倍 |
| 280万円 | 20万円 | 14倍 | |
| Direct | 140万円 | 0円 | — |
「Instagramが新規顧客を連れてきて、その後Google指名検索で購入に至っている」という全く違う構造が見えます。このケースでInstagramを削ると、数ヶ月後にGoogle指名検索のボリュームそのものが細って売上が崩れる という副作用が起きます。
ラストクリックは嘘をつかないが、全体像も教えてくれない。これが現実です。
3. アトリビューションモデルの4つの考え方#
ラストクリックの限界を補うために考案されたのが、マルチタッチアトリビューションです。複数のチャネルが連携して購入に至った場合、それぞれの貢献度をどう配分するか、という考え方の総称です。
代表的には4つのモデルがあります。
- ラストタッチ: 最後の流入チャネルに100%帰属させる(従来のラストクリックと同じ)。購入直結の評価に向く
- ファーストタッチ: 最初の流入チャネルに100%帰属させる。新規顧客をどのチャネルが連れてきたかを評価する
- リニア: 関与した全チャネルに均等に按分する。どのチャネルも同等に貢献したという前提
- タイムディケイ: 購入に近いタッチポイントほど重みを大きくする。「最後の一押し」を強めに評価しつつ、認知段階のチャネルもゼロ評価にしない
それぞれに思想があり、それぞれに「正しさ」と「歪み」があります。重要なのは、どのモデルが絶対的に正しい、ということはない という事実です。同じデータでも、見たい問いによって最適なモデルが変わります。
4. モデルの使い分け — 「何を知りたいか」で選ぶ#
では、どう使い分けるか。シンプルなフレームを提案します。
| 知りたいこと | 推奨モデル | なぜ |
|---|---|---|
| どのチャネルが新規顧客を連れてきたか | ファーストタッチ | 認知の入口を評価できる |
| どのチャネルが直接売上を作ったか | ラストタッチ | 最後の決定打を評価できる |
| 全体ジャーニーでのチャネル貢献を見たい | リニア | 公平に按分される |
| 購入意欲が高まる過程を含めて評価したい | タイムディケイ | 最後の一押しを重視しつつ全体も見る |
実務で大事なのは、1つのモデルに固執しないことです。新規獲得チャネルの見直しならファーストタッチ、ラストミニッツ施策の評価ならラストタッチ、といった具合に、「何を知りたいか」を先に決めてからモデルを選ぶ のが正しい使い方です。
ラストクリックだけを見ているうちは、この「使い分け」自体が選択肢に入りません。広告予算配分の判断軸が1つしかない状態では、複雑な現実をシンプルに切り捨てることしかできなくなります。
広告予算を月20万円でも動かしているなら、意思決定の基準を1つのモデルに依存させないこと が事業を守ります。「ROASが低いから削る」の前に、「他のモデルで見たらどうなるか」を一度確認するだけで、致命的な判断ミスを避けられます。
なお、この記事の前提として「そもそも広告チャネル別の売上を一画面で見られる状態」が必要になります。GA4でこの問いに答えるのが難しい理由は、別記事 GA4は売上を見るツールではない — EC事業者が見落とす「直接指標」 で詳しく整理しました。
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