先週まで7割前後だったかご落ち率が、ある日を境に8割台へ上がったとします。カートの入力欄も送料の表示も変えていません。買い物客の行動が変わった様子もありません。それでも率だけが上がるとき、増えているのは購入をやめた人ではなく、決済の失敗回数のほうです。
目次
この記事のまとめ#
- かご落ち率が跳ねた週は、同じ日から決済の失敗回数が増えていないかを先に確かめる
- カードテスティングは少額の決済を短時間に繰り返すので、カートまで進んだ数だけが増える
- 分子の購入数は変わらないため、買い物客の行動が同じでも率だけが上がる
- botは入口ごとに偏る。自社サイトの直近30日では、主要な2つの入口 (DirectとGoogle検索) のあいだに約7倍の開きがあった
- 打ち手を選ぶ前に、率をつくっている分母にBotが乗っていないかを1回確かめる
1. かご落ちが増えたとき、先に確かめるのは決済の失敗#
かご落ち率が跳ねた週は、同じ日から決済の失敗回数が増えていないかを先に確かめます。
かご落ちが増えたと分かったとき、手が伸びる先はだいたい決まっています。入力欄を減らす、送料を早い段階で見せる、かご落ちメールを配信する。どれもかご落ちを減らす手として間違っていません。合っていないのは順番のほうです。その率の分母に人間以外が混ざっていないかを先に確かめないと、変わっていない相手に手を入れ続けることになります。
決済の失敗が急に増えるときの背景として多いのが、カードテスティングです。盗まれたカード情報がまだ有効で購入に使えるかどうかを確かめようとする行為で[1]、日本では「クレジットマスター」とも呼ばれます[1]。Stripeは、これを見分ける手がかりとして次の3つを挙げています[1]。
- 支払いの失敗またはブロックの急増
- 402エラーのリクエストの急増
- 取引額の少ない疑わしい支払いの急増(不自然な顧客名やメールアドレスを伴うことが多い)
3つとも決済の側で起きることで、サイトの見た目には現れません。Shopifyも、カート投入が続くのに購入に至らない状態と、短時間に決済の失敗が連続する状態をbotの兆候として挙げています[2]。

先に増えるのは決済の失敗のほうで、かご落ち率はその後から上がります。順序が逆に見えるのは、かご落ち率を週次や月次で見ているときです。丸めた期間で並べると、両方が同じ週に上がったようにしか読めません。
決済の件数と計測ツール側の件数が食い違う場面は、これが初めてではありません。同じ購入を別々の仕組みで集計すると数は合わないという話は、GA4の購入数が注文より多いで扱いました。流入そのものが急に増えたときの確かめ方はアクセスが急に増えたにまとめてあります。本記事はその手前ではなく、購入ファネルの側で起きる増え方の話です。
2. 買い物の仕方は変わっていないのに、率だけが上がる#
分子の購入数はそのままで、分母のカートまで進んだ数だけがBotの試行で増えるため、率だけが上がります。
かご落ち率の計算式と、一般に言われる7割前後という水準はカゴ落ち率は追わないで扱いました。検索では「カゴ落ち」と「かご落ち」の両方の書き方が使われますが、指しているものは同じです。ここで見るのは、その式の中身のほうです。
カードテスティングは、少額の決済を短時間に繰り返します。少額の決済が選ばれるのは、金額が小さいほうがカード保有者に気づかれにくく、不正利用として報告されにくいためです[1]。試行はカートを通って決済まで進むので、カートまで進んだ数は増えます。一方で購入は成立しないか、成立しても直後に返金することになります。増えるのは分母だけです。

分母が汚れると、壊れるのは率だけではありません。Stripeはカードテスティングの悪影響のひとつに、ビジネス運営に必要なデータの質が下がることを挙げています[1]。カードテスティングから生まれた売上がデータの上では優良な新規顧客に見えてしまい、実質的な成長を把握しにくくなるためです[1]。Shopifyも、分析がbotで水増しされるとCVRは実際より低く見え、トラフィックのレポートが実在しない成長を示すと説明しています[2]。
ここまでの兆候は、決済代行の管理画面をひとつ開けば見当が付きます。支払いの失敗が特定の日から増えていないか。同じ安い商品の少額注文が続いていないか。注文者名やメールアドレスに不自然なものが混ざっていないか。1回確かめてみる価値はあります。ただ、決済の側で分かるのは決済の失敗までです。その失敗が、サイトのどの入口から来た何件のアクセスの上で起きたのかは、決済の側に記録されていません。
3. botは全部の入口から均等には来ない#
サイト全体の数字をひとつ見ているかぎり、偏りは表に出ません。入口別に割ってはじめて出ます。
私が運営しているrevenuescope.jpで、チャネル別の内訳を確かめました。直近30日で、セッションのうちbotとして除外した比率はサイト全体で38.6%です。同じ期間を入口別に開くと、Directが70.6%、Google検索が10.1%。同じサイトの同じ期間で、セッションが集まっている主要な2つの入口のあいだに約7倍の開きがあります。
なお、この2つはどちらも主要な入口です。除外する前のアクセスで見ると、DirectとGoogle検索の2つだけでサイト全体の8割以上を占めています。数件しか来ていない入口の比率を並べたわけではない、という意味です。入口別の比率は母数が細るほど大きく振れるので、開きを読むときは、その入口がどれだけの分母を持っているかを先に見てください。
期間を90日に広げても、全体の比率は39.9%でほとんど変わりません。ところが入口別ではDirectが75.4%、Google検索が8.1%で、開きは約9倍に広がります。順位も入れ替わりません。特定の週に起きた一過性のぶれではないということです。
※ 集計に使ったのはRevenueScopeのget_breakdown(dimension=channel)で、対象サイトはrevenuescope.jpです。期間は直近30日と直近90日、アトリビューションモデルはlast_touch、bot判定は振る舞いベース、実測日は2026年8月17日です。
同じ「かご落ちが増えた」でも、人が離れている場合とBotが来ている場合とでは、確かめる項目ごとに出方が分かれます。

botを弾いたあとに数字がどう変わるかはbot対策後、アクセスが減少で扱いました。人とBotを分けて集計するという前提そのものは、AIエージェントが買う時代にまとめてあります。
もう一度、さきほどの実測に戻ります。流入の柱であるGoogle検索が10.1%なのに対し、Directは70.6%でした。参照元の情報が付いていない訪問は素性が分からないぶん、ふつうのアクセスとして扱われがちです。全体の38.6%という値だけを見ていて、この偏りに自力で行き着ける人はいません。入口ごとに人間のセッションと除外した件数を同じ一覧に置いて、はじめて名指しできます。
RevenueScopeの解決策
RevenueScope が入口別に集計するのは、botを除外したあとのセッションと、そのときに除外した件数です。CVR・平均滞在秒・直帰率・売上・RPS(1セッションあたりの売上)も、同じ入口の内訳として一覧で表示します。
MCP経由でChatGPTやClaudeなどのAIアシスタントに、「直近30日の入口別のセッションとbot除外数、CVR、平均滞在秒は?」と尋ねたとします。返ってくるのは次の形です。説明のために、架空店舗コハクの丸めた数値で書き出します。
架空店舗コハクの入口別の内訳(イメージ)
| 入口 | セッション | bot除外数 | CVR | 平均滞在秒 |
|---|---|---|---|---|
| サイト全体 | 7,000 | 5,000 | 1.8% | 50秒 |
| Google検索 | 4,000 | 400 | 2.7% | 75秒 |
| Direct | 2,000 | 4,400 | 0.4% | 10秒 |
| Referral | 1,000 | 200 | 1.0% | 30秒 |
※ 上の表は説明のために作った架空の一例で、数値は丸めてあります。デモ画面が使っているのは見本ECのサンプルデータ(日々更新)で、入口の名前も数値もここに書いた値とは一致しません。
セッションとbot除外数を足すと、除外する前の生のアクセス件数になります。サイト全体では12,000件のうち5,000件を除外したことになり、Directに限れば6,400件のうち4,400件です。
サイト全体のCVRは1.8%です。ところが入口別に開くと、Google検索は2.7%、Directは0.4%。1.8%で買っている入口はどこにもありません。しかもDirectは平均滞在秒が10秒で、商品ページを読んだ形跡がないまま件数だけが積み上がっています。除外する前のDirectの分母は6,400件で、同じ8件の購入に対して率は3分の1以下になります。サイト全体のCVRも、その値に引きずられます。
次の一手は、Directの中身を分けることです。参照元の情報が付いていない訪問には、URLを直接入力した人とBotの試行が同じ入口として入ります。かご落ち率の分母はカートまで進んだ数なので、その中身を直接分けられるのは決済とカートの側です。入口別の除外件数と、外したあとの購入率が押さえてあれば、その期間にカートまでBotが到達しうる量が来ていたのかどうかが分かります。率が上がった原因を買い物客の行動に帰する前に、そこで切り分けられます。手を入れるのがカートの側なのか入口の側なのかは、そこで決まります。
FAQ#
よくある質問#
Q. かご落ち率が上がったら、いつでもカードテスティングが原因と考えてよいですか?
A. いいえ。まず見るのは、決済の失敗回数が同じ日から増えているかどうかです。ただしこれだけで決めず、上の5項目のうち複数が重なるかで判断してください。決済の再試行を繰り返す仕組みを入れている場合も失敗は増えるので、失敗の急増そのものは決め手になりません。失敗がふだんの水準のままで率だけ上がっているなら、原因はサイトの側にあります。Stripeが挙げる手がかりは、支払いの失敗またはブロックの急増、402エラーのリクエストの急増、少額の疑わしい支払いの急増の3つです[1]。
Q. 少額の商品ばかりが狙われるのはなぜですか?
A. 金額が小さいほうがカード保有者に気づかれにくく、不正利用として報告されにくいためです[1]。盗まれた番号を短時間で試すのに向いている、ということです。安い商品に注文が集中しているかどうかは、注文の一覧を金額順にして確かめられます。
Q. 日本ではどのくらいの規模の話ですか?
A. 一般社団法人日本クレジット協会の集計を見ます。2026年1月から3月のクレジットカード不正利用被害額は113.6億円で、うち番号盗用によるものが106.0億円、構成比93.3%です[4]。2026年6月30日公表・主要事業者48社ベースの数値です。盗まれた番号を使う不正が被害の大半ということで、カードテスティングは、その番号がまだ有効かどうかを確かめる手口のひとつにあたります。
Q. 決済の失敗が続くと、ほかに影響はありますか?
A. Shopifyは、決済の失敗が銀行からの信用を下げ、攻撃が終わったあとも正規の決済が拒否されやすくなると説明しています[3]。同社は、ゲスト決済でのクレジットカード利用について、自社の機械学習がカードテスティングの攻撃の約90%をブロックしていると述べています[3]。
まとめ#
かご落ち率が急に上がったとき、先に確かめるのは決済の失敗回数です。同じ日から失敗が増えているなら、増えたのは購入をやめた買い物客ではなく、Botの試行であることがあります。盗まれたカード番号がまだ使えるかを短時間に試す行為は、支払いの失敗の急増として現れます[1]。試行はカートを通るので分母だけが増え、購入数が同じでも率は上がります。
botは入口ごとに偏ります。自社サイトの直近30日の実測では、主要な2つの入口のあいだに約7倍、90日では約9倍の開きがありました。全体の比率は38.6%と39.9%でほとんど変わらないので、サイト全体の数字をひとつ見ているかぎり、この偏りは表に出ません。
入力欄の改善もかご落ちメールも、かご落ちを減らす手として有効です。その前に、率をつくっている分母にBotが乗っていないかを1回確かめる。確かめずに進めると、変わっていない相手を改善し続けることになります。
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