「ウチの広告のROAS、350%なんですけど……これって良いんですか、悪いんですか?」。広告レポートを前にしたEC事業者から、最もよく返ってくる質問です。
結論から言うと、業種平均と比べるだけでは「良し悪し」は決まりません。同じアパレルでも、粗利率が40%の店と60%の店では、黒字になる最低ラインのROASが1.5倍も違うからです。この記事では、業種別ROASの目安レンジを整理したうえで、自店の数字を正しく判定する方法と、その次の一手の決め方までを順に解説します。
まとめ解説動画
この記事のまとめ#
- ROASの目安は業種で2倍以上違う。アパレル300〜400%/コスメ400〜600%/食品250〜350%/家電200〜300%が代表レンジ。AOV(客単価)と利益率の業種特性が効くため、業種を無視した「平均ROAS」での比較は判断を誤らせます。
- 業種平均より「自店の損益分岐点ROAS」が基準。損益分岐点ROAS=1÷粗利率。粗利40%なら250%、粗利60%なら167%。業種平均を目標にするのではなく、自店の粗利率から逆算した最低ラインで黒字か赤字かを判定します。
- ROASだけでは「次の一手」は決まらない。広告費1円の回収(ROAS)が分かっても、訪問1回あたりの売上効率(RPS)をチャネル別に見なければ、どのチャネルに次の予算を寄せるかは判断できません。
1.業種別ROASの目安レンジ(2026年版)#
結論:ROASの目安は業種で2倍以上開きます。まずは自店の業種の代表レンジを把握しましょう。

| 業種 | ROAS目安レンジ | 特徴 |
|---|---|---|
| ファッション・アパレル | 300〜400% | 単価が低く競争が激しい。季節性が強い |
| コスメ・美容/健康 | 400〜600% | リピート前提でLTVが高く、初回は高めの目標になりやすい |
| 食品・グルメ/D2C | 250〜350% | 低単価・高頻度リピート。初回ROASは低めでも回収できる |
| 家電・電子機器 | 200〜300% | 高単価だが粗利が薄く、検討期間が長い |
| EC全体(参考) | 300〜500% | 全業種をならした参考値 |
⚠️ この表は各社の運用知見をならした代表レンジです。公的な業種別ROAS統計は存在しません。商品単価・利益率・広告チャネル構成によって適正値は大きく動きます。あくまで「出発点」として使ってください。
なぜ業種でこれほど違うのか。理由は2つです。1つはAOV(平均注文額)の差で、家電1点の注文は数万円になりますが、アパレルD2Cの1点平均は6,000円前後です。もう1つは粗利率の差で、食品やアパレルは粗利が薄く、同じ広告費でも回収に必要な売上が変わります。業種が違えば「同じROAS」の意味も変わるわけです。
2.なぜ業種平均をそのまま目標にすると危険か—損益分岐点ROAS#
結論:目標にすべきは業種平均ではなく、自店の粗利率から逆算した「損益分岐点ROAS」です。
損益分岐点ROASとは、広告費がちょうど回収できる(利益がゼロになる)ROASのことです。計算式はシンプルです。
損益分岐点ROAS = 1 ÷ 粗利率
粗利率(売上に対する粗利の割合)を入れるだけで、黒字に必要な最低ROASが出ます。

| 粗利率 | 損益分岐点ROAS | 意味 |
|---|---|---|
| 20% | 500% | ROAS500%でようやくトントン |
| 30% | 333% | 333%未満は赤字 |
| 40% | 250% | 250%が黒字ライン |
| 50% | 200% | 200%で回収 |
| 60% | 167% | 167%超で黒字 |
ここで業種平均の罠が見えてきます。たとえばアパレルの業種平均が350%だとして、それを目標に掲げたとします。しかし自店の粗利が30%なら、損益分岐点は333%です。平均の350%を達成しても、利益はほとんど残りません。逆に粗利が60%なら損益分岐点は167%なので、ROASが250%でも十分に黒字です。
つまり「業種平均を上回ったか」ではなく、「自店の損益分岐点を上回ったか」で判断するのが正しい順序です。計算式や損益分岐点の詳しい逆算手順は ROAS完全ガイド と ROASとは でも解説しています。
3.自店のROASが良いか悪いかを判定する3ステップ#
結論:業種平均との単純比較ではなく、損益分岐点を基準に「黒字か・余地があるか」を3ステップで判定します。
ステップ1:自店の粗利率から損益分岐点ROASを出す#
まず自店の粗利率を確認します。売上原価がはっきりしない場合は、ざっくり「売上−仕入れ−送料−決済手数料」で粗利を概算します。粗利率が出たら、1÷粗利率で損益分岐点ROASを計算します。
ステップ2:実際のROASと比べて「黒字か」を見る#
広告管理画面のROAS(売上÷広告費)を、ステップ1の損益分岐点と比較します。判定はシンプルです。
| 実ROAS vs 損益分岐点 | 判定 | 次の方針 |
|---|---|---|
| 損益分岐点の0.8倍未満 | 赤字 | 配信停止・クリエイティブ/ターゲットを見直す |
| 損益分岐点の0.8〜1.2倍 | トントン | 改善で黒字化を狙う段階 |
| 損益分岐点の1.2倍以上 | 黒字 | 予算拡大を検討できる |
ステップ3:業種レンジは「ズレの確認」だけに使う#
最後に第1章の業種レンジと照らします。これは目標設定ではなく、「自店が業種からどれだけ外れているか」の確認のためです。業種レンジを大きく下回るなら、商品の粗利構造そのものや、広告以外の集客(後述)に課題がある可能性があります。
4.ROASだけでは「次の一手」が決まらない—チャネル別の売上効率#
結論:ROASは「広告費を回収できたか」を教えますが、「次にどこへ予算を寄せるか」はチャネル別の売上効率(RPS)を見ないと決まりません。
ROASには弱点があります。広告費を投じたチャネルしか評価できず、しかも「売上額が大きいチャネル=効率が良い」とは限らない点です。ここで役立つのが**RPS(Revenue Per Session=訪問1回あたりの売上)**です。

たとえば全体ROASが同じ水準でも、チャネルごとに分けて訪問あたりの売上を見ると、効率の差がはっきりします。
| チャネル | 訪問あたり売上(RPS) | 見え方 |
|---|---|---|
| メルマガ | ¥320 | 配信コストが低く、効率は最上位 |
| Google検索 | ¥210 | 安定して効率が高い |
| リターゲティング | ¥150 | 中位 |
| Instagram広告 | ¥95 | 売上額は大きいが、訪問あたりは最下位 |
Instagram広告は売上額が一番大きいことが多く、ROASだけ見ると「もっと予算を増やそう」となりがちです。しかし訪問あたりで見ると最下位で、予算を増やすほど効率の悪い訪問を買い増すことになります。逆にメルマガは訪問あたりの売上が最上位なのに、コストが低いため見落とされがちです。次の一手は「売上額」ではなく「訪問あたりの効率」で決める——これがチャネル別RPSの役割です。
RevenueScopeの解決策
ここまでの「自店の損益分岐点で判定し、チャネル別の効率で次を決める」を、実際の画面で見てみましょう。RevenueScopeは、GA4とサイトの売上データから、広告チャネルごとの売上効率を一覧化します。表示する指標は Revenue(売上)/AOV(客単価)/RPS(訪問あたり売上)/CVR(成約率) の4つです。

この画面(あるアパレルECのデモデータ)を読むと、次の2つがすぐ分かります。1つ目は、メルマガのRPSが¥320で最上位なのに対し、Instagram広告は売上額こそ大きいがRPSは¥95で最下位という逆転です。2つ目は、Instagramは成約率(CVR)も低く、訪問の質そのものが弱いという点です。
ここから導ける次の一手は明確です。Instagramへの増額は一度止め、効率最上位のメルマガ(CRM施策)と、安定して高いGoogle検索に次の予算を寄せる。ROASだけでは「売上が大きいInstagramを伸ばそう」と逆の判断をしかねないところを、チャネル別RPSが正してくれます。
なお、RevenueScopeはROAS(広告費用対効果)そのものは算出しません。広告APIとの直連を意図的に持たず、タグ1つ・5分で「どのチャネルがいくらの売上を、どれだけの効率で生んでいるか」に絞って可視化する設計です。ROASは広告管理画面の数値と併せてご覧ください。
FAQ#
Q. 業種別ROASの「正解」の数値はありますか? A. 公的な業種別ROAS統計はありません。本記事のレンジは各社の運用知見をならした参考値です。正解は業種平均ではなく、自店の粗利率から逆算した損益分岐点ROAS(1÷粗利率)です。
Q. ROASが業種平均を上回っていれば安心ですか? A. いいえ。粗利率が低い店は、業種平均を上回っても赤字のことがあります。まず自店の損益分岐点ROASを出し、それを超えているかで判定してください。
Q. ROASとRPSはどう使い分けますか? A. ROASは「広告費を回収できたか」、RPS(訪問あたり売上)は「どのチャネルの訪問が効率的か」を見る指標です。ROASで黒字を確認し、RPSで次の予算配分を決めるのが基本の流れです。詳しくは RPSの計算式と出し方 をご覧ください。
まとめ#
業種別ROASの目安は、アパレル300〜400%、コスメ400〜600%、食品250〜350%が代表レンジですが、これは出発点にすぎません。判断の基準は業種平均ではなく、自店の粗利率から逆算した損益分岐点ROAS(1÷粗利率)です。そして黒字を確認したあとの「次の一手」は、ROASではなくチャネル別の訪問あたり売上(RPS)で決めます。平均と比べて一喜一憂するのではなく、自店の数字を起点に判断する——これが広告予算を無駄なく回す近道です。
本記事の関連トピックは /news でも扱っています。
- ROAS完全ガイド 2026|計算式・損益分岐点・改善の打ち手4つ
- ROASとは|広告費の回収効率を測る指標
- 業種別RPSベンチマーク2026|アパレル・食品・コスメ・家電・SaaSの基準値
- RPS(Revenue Per Session)— 計算式・実例・GA4での出し方
- 客単価(AOV)の正しい計算と上げ方|10の打ち手
参考文献#
[1] Shopify 「Return on Ad Spend: How To Calculate Your ROAS」 2026年
[2] シロフネ 「ROASの目安や業界平均値、比較する際に見るべきポイント」 2025年
[3] LocaliQ 「Search Advertising Benchmarks」 2025年
[4] 経済産業省 「令和6年度電子商取引に関する市場調査」 2025年8月
[5] Baymard Institute 「E-Commerce Cart & Checkout Usability Research」 2024年

