本記事の3社は EC現場ヒアリングと公開データを組み合わせた 想定事例 です。広告予算配分の改善幅は事業者・業種・施策種類で大きく変動しますが、本記事の各ケース(+15% / +8% / +22%)は EC現場で観察される +5-20% レンジ内に収めた設定です。
「広告予算をどこにどれだけ配分すべきか」。月商1,000-5,000万円規模のShopify EC事業者から多く受ける相談です。CVRやROASを起点にしても判断軸が定まらず、結果として予算配分の効率が頭打ちになります。
1セッションあたりの売上 を示す RPS(Revenue Per Session) は、AOVとCVRを掛け合わせた売上効率の絶対指標です。本記事では3社の想定事例(アパレル・雑貨・食品)を通じて、RPSによる広告予算最適化の実務手順を整理します。
この記事のまとめ#
- アパレル(+15%)・雑貨(+8%)・食品(+22%) の3社想定事例を通じて、RPSによる広告予算最適化の手順を提示。各社の改善幅は業界平均改善幅 +5-20% のレンジに収めた現実的な設定
- 判断フレームは共通: ①業種別RPS中央値で「現在地」を測る ②RPS×CVR 4象限で媒体位置を判定 ③低RPS媒体の予算を高RPS媒体へ再配分 の3ステップで、業種が違っても同じフレームが機能する
- Case Cの食品ECは初動で失敗。RPS主軸を導入したが計測設計の不備(UTM表記揺れ・Cookie越境・Last-touch偏重)で予算配分を誤り3か月で改善ゼロ。計測精緻化を経て+22%に到達した失敗から改善への物語
1. 3社のケース概要 - RPS×CVR 4象限の判断フレーム#
3社のサマリは以下です。月商1,000-5,000万円帯のShopify EC で、Revenue First 思想の判断軸を導入した記録です。

判断フレームは3社共通で、RPS×CVR 4象限マトリクスで各媒体位置を可視化し低RPS媒体予算を高RPS媒体へ再配分します。詳細は「RPSとCVRの違い・併用ガイド」 参照。

2. Case A: アパレルEC - 媒体偏重の見直しでRPS+15%#
起点: 月商2,500万円。Meta広告(Instagram + Facebook)に予算の7割を集中投下。CVRはMeta経由 2.1%、Google検索広告 1.4%、自然検索 1.8%でMetaが優秀に見えていました。
乖離: RPSで見るとMeta経由 ¥72、Google検索広告 ¥110、自然検索 ¥95。Meta経由のAOVが¥3,400とGoogle検索広告(¥7,800)の半分以下で、CVRは高いがAOVを犠牲にしていた構造です。
施策: Meta予算を7割から4割に圧縮、Google検索広告に2割、自然検索SEO投資に2割、リターゲティングに1割を再配分。Meta側はカタログ広告で高単価アイテムを優先表示する設定に切替。
結果: 3か月後、全体RPS ¥85 から ¥98 へ(+15%)、Revenue ¥2,500万 から ¥2,840万 へ。Meta経由 CVR 2.1% から 1.7% に低下したが AOV ¥3,400 から ¥4,800 への上昇で Meta経由 RPS は ¥72 から ¥82 へ改善。アパレル業界中央値 ¥90 [1] を超えた状態です。
CVRが高い媒体 = 広告効率が良い、とは限りません。AOVが低い媒体ほど「数を稼ぐが売上を稼がない」 構造に陥りやすく、RPSで見ると判断が逆転する典型例でした。
3. Case B: 雑貨EC - LP最適化と AOV施策でRPS+8%#
起点: 月商1,200万円。生活雑貨・キッチン用品中心。広告予算配分は均等(Meta 3割・Google検索 3割・Yahoo! 2割・自然検索 2割)。RPSは ¥75で業種推定中央値 ¥80-100の下限近く [2]。広告予算を増やしても売上が比例せず頭打ち感があった状態です。
乖離: 媒体別RPSはMeta ¥68・Google検索 ¥82・Yahoo! ¥71・自然検索 ¥78でほぼ拮抗。媒体差より サイト全体のAOVが低い(¥3,200)ことが構造問題と判明。雑貨カテゴリは1点売りでカゴ落ちしやすく、CVRも1.6%と業界中央値レベルでした。
施策: 媒体予算配分は維持し、サイト側の最適化に投資。①送料無料閾値 ¥3,500から¥5,000 に引上げ ②商品ページに「あわせて買われる商品」モジュール追加 ③カゴ落ちメール(Klaviyo)導入 ④Hero画像とCTAを A/Bテストで改善。
結果: 3か月後、全体RPS ¥75 から ¥81 へ(+8%)。AOV ¥3,200 から ¥4,100 に上昇し CVR は 1.6% から 1.55% にわずかに低下、合成結果のRPSは改善。Revenue ¥1,200万 から ¥1,295万。
媒体間のRPS差が小さい場合、サイト全体のAOV底上げ が打ち手の優先順位として上がります。+8%は3社中最小ですが、業界平均改善幅 +5-20% の下限近くに収まる現実的な数値です。
4. Case C: 食品EC - 初動失敗から計測精緻化でRPS+22%#
3社の中で最も改善幅が大きく、同時に 初動で失敗した ケースです。失敗から学んだ計測設計の話を中心に整理します。
起点: 月商4,800万円。D2C食品(健康食品・ギフト)中心。リピート率が高くCVR 3.2%(食品業界中央値 3.0%相当 [1])。RPSは¥125で業界中央値 ¥135の少し下。Meta広告とGoogle検索広告に均等配分。
初動の失敗(1-3か月目): RPS主軸で広告予算を再配分する判断を導入したが、計測設計の不備で誤った媒体に予算を寄せました。
- UTM表記揺れ: utm_source=facebook と Facebook が別チャネル扱いで集計され、Meta経由のRPSが過小評価
- Cookie越境問題: Safari ITPでサードパーティCookie制限を受け、Meta経由のCV計上漏れが発生
- Last-touch偏重: アシスト効果を考慮せず最終タッチだけで評価し、自然検索の貢献を低く計上
結果、Meta予算を減らしGoogle検索に寄せた判断が裏目に出て、3か月で全体RPSは¥125から¥128(+2.4%)と改善ほぼゼロ。Revenue は微増したが、リターゲティング縮小でリピート購入の機会損失が発生していた可能性が高い状態でした。
計測精緻化(4-6か月目): ①UTM自動名寄せ(表記揺れを全て小文字統一・trim) ②dataLayer相乗り(GA4売上データを別経路でも取得しCookie制限影響を最小化) ③Last-touch + アシスト併用(3クリック以内のアシスト寄与を補完表示)。
結果: 計測精緻化後の3か月で全体RPS ¥128 から ¥152 へ(+18.8%)、初動からの累計で ¥125 から ¥152(+22%)。Revenue ¥4,800万 から ¥5,856万。業界中央値 ¥135 を超えた状態です。
RPS主軸の判断は 正確な計測 が前提条件で、UTM表記揺れ・Cookie越境・アトリビューションモデル不備で判断材料そのものが歪みます。
5. 3ケース共通の判断軸 - 業種別中央値で「現在地」を測る#
3社のケースから抽出される共通の判断軸は3つです。
①業種別RPS中央値で「現在地」を測る: 各業種のRPS中央値・上位25%のレンジを把握しないと、自社が「業界平均以下なのか・以上なのか」 が判定できません。アパレル ¥90、食品/D2C ¥135、コスメ ¥110、家電 ¥200 など業種差は2-3倍に達し、自社業種の中央値を起点にしないと改善余地を見誤ります [1]。詳細は別記事「業種別RPSベンチマーク」 を参照してください。

②RPS×CVR 4象限で媒体・チャネル位置を判定: Q3(両軸低)の媒体予算をQ2(両軸高)またはQ1(RPS高×CVR低)の媒体に再配分するのが基本形。Case AのMeta予算削減・Google検索拡大はこの典型パターンでした。
③計測基盤の正確性が前提条件: Case Cが示した通り、UTM表記揺れ・Cookie越境・アトリビューションモデル不備でRPSの数値そのものが歪みます。詳細は「RPS(Revenue Per Session)完全ガイド」 を参照してください。
国内BtoC EC市場は2024年に26兆1,225億円規模 [3] に達し、広告予算配分の質が事業成長に直結します。Revenue First 思想の売上ダッシュボード設計指針は「売上ダッシュボード設計の正解」 で整理しています。次回は本記事3社の数値を再現できるRPS計算機を提供予定です。CVR中心からRPS主軸への移行は、ダッシュボードKPI構成の変更だけで実装可能です。
参考文献#
[1] Dynamic Yield 「E-commerce Benchmarks」 2025年
[2] Yotpo 「2025 State of E-commerce」 2025年
[3] 経済産業省 「令和6年度電子商取引に関する市場調査」 2025年8月
